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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和59年(ネ)231号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

皆川浅雄

右訴訟代理人

樋高学

被控訴人(附帯控訴人)

鼎富勝

右訴訟代理人

井之脇寿一

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(一)  被控訴人の主たる請求(保険金返還請求)を棄却する。

(二)  被控訴人の予備的請求(求償金請求)に基づき、控訴人は被控訴人に対し金四二八万円及びこれに対する昭和五四年一二月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被控訴人のその余の予備的請求を棄却する。

二  訴訟費用は一、二審を通じこれを三分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

第一原判決の引用〈省略〉

第二主たる請求原因の検討

一当事者間に争いのない事実

被控訴人主張の請求原因1、2(二)の事実、即ち被控訴人が控訴人から本件船舶を三、七〇〇万円で買受けたこと、本件船舶に右売買契約当時から保険金額を四、〇〇〇万円とする海上保険が締結されていたことは、前示原判決引用のとおり当事者間に争いがない。

二保険金受領について

被控訴人は請求原因2(二)において控訴人が昭和五一年一〇月二九日共栄火災から右保険金四、〇〇〇万円の支払を受けたと主張し、控訴人はこれを否認するので検討する。

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  昭和五〇年九月一日共栄火災(保険者)と被控訴人(保険契約者)との間に本件船舶につき次の海上保険契約が締結されている(甲第二号証)。

1保険の目的 船舶、2、てん補の範囲(保険者の負担した危険)全損、救助費、共同海損等、3保険価額 四、〇〇〇万円、4保険金額 四、〇〇〇万円、5保険料 三二八万二、〇〇〇円、6保険期間 自昭和五〇年九月一日正午至昭和五一年九月一日正午、7保険契約者 被控訴人、8保険者 共栄火災、9船舶所有者 控訴人、10被保険者 控訴人

(二)  昭和五一年六月五日本件船舶が沈没し、全損の保険事故が発生した。

(三)  本件船舶沈没当時本件船舶には質権者らに対し本件各債務を被担保債権とする質権が設定されていた。

(四)  控訴人主張の抗弁1(二)の債務八三五万円(以下、「立替金債務」という)のうち、同抗弁1(二)(3)の(ウ)(エ)の債務を除いた債務六七七万円(以下、適正立替金債務という)を右本件船舶沈没当時被控訴人が共栄産業に負担していた。

(五)  本件船舶沈没後保険金支払前に控訴人、被控訴人、共栄火災の係員、質権者らが話合った結果、本件保険金四、〇〇〇万円を控訴人が直接受取り、それからまず右立替金債務を支払い、その残額をもつて質権者らに対する債務を支払う、但し、右各債務はその真実の現在高に限り支払うとの合意がなされたが、とくに右立替金債務の明細や金額については明確な確認がなされなかった。

なお、甲第六号証の確認書は控訴人において後日作成したもので、被控訴人の記名押印もなく、被控訴人が右立替金債務をそのまま適正なものとして、その内容や金額まで了承していたものとはいえない。

(六)  同年一〇月二九日共栄火災から控訴人に本件保険金四、〇〇〇万円が支払われ(甲第四号証、とくに保険支払の提出書類として質権者らに対する「3保険金直接支払承諾書」が「」のように抹消されている個所参照)、控訴人においてまず右立替金債務を自己が代表取締役をしている共栄産業に被控訴人に代つて支払つたものとして処理し、その保険金残額をもつて質権者らに対する残債務(相互信用金庫は一、七〇〇万円―原審証人有蘭杉夫の証言、原審記録八二丁表裏四〜六項、岡下造船は一、六〇〇万円―原審記録七五丁表五項、アイリンの残債務は不明)を支払うことにしたが、右残額をもつてはその支払に不足するので、その不足額は自己が受取るべき右立替金債権に充当された保険金相当分をもつてこれを補い一括して、右質権者らに対する残債務を銀行振込その他の方法により支払つた。

〈反証排斥略〉他に右認定を覆すに足る証拠がない。

したがつて、被控訴人主張の請求原因2(二)のうち、控訴人が共栄火災から本件保険金四、〇〇〇万円を受取つたことは前認定(五)、(六)の事実によりこれを認めることができる。

三保険金受取人について

被控訴人は請求原因2(二)において、本件船舶の所有権は被控訴人にあり、本件海上保険における保険金受取人は被控訴人であると主張し、控訴人は他の事項と共に一括否認しているので検討するに、前認定二(一)9、10のとおり本件海上保険契約において共栄火災との関係では船舶所有者、被保険者とも控訴人とされていることが認められ(甲第二号証参照)、海上保険ないし損害保険契約において被保険者とは被保険利益の主体、即ち本件では本件船舶の所有者として、保険事故の発生に際してこれによる損害の填補、即ち保険金を受取るべき者をいうが、このように保険契約者と被保険者が異なる他人のためにする海上保険契約においても、保険者との関係は別として、両者の内部関係において実質上の船舶の所有者である保険契約者を実質的被保険者としてこれを保険金の受取人と定めることはもとより許されるところであつて、前示訂正して引用した原判決理由説示一2項のとおり、前認定二(一)の本件海上保険契約締結当時、既に本件船舶は控訴人から被控訴人に売渡され、その所有権は被控訴人に移転していたが、売買代金完済までその所有登記名義のみが控訴人に残留していたに過ぎず、その関係で船舶所有者、被保険者を形式上控訴人名義にして本件海上保険契約を締結したものであつて、本件当事者間の内部関係では実質上の船舶所有者である被控訴人が被保険者として本件保険金を受取るべきものとされていたと認めるのが相当であつて、本件全証拠によるもこれを覆すに足る証拠がない。

四被控訴人の本件船舶売買代金債務について

被控訴人が控訴人から本件船舶を三、七〇〇万円で買受けたことは前示一のとおりであるが、そのうち八三五万円を被控訴人が控訴人に支払つたという被控訴人主張の請求原因2(三)の事実の有無につき検討する。

この点につき、控訴人は本件船舶の売買代金三、七〇〇万円を毎月手形で一一五万円宛分割払をする約であつたところ、原審における控訴人本人尋問の結果においては五回分位を控訴人も協力して被控訴人がその差入れた手形を落として決済した旨供述し(原審記録八七丁裏五項、九一丁裏二八項)、当審における控訴人本人尋問の結果では前認定二(二)の本件船舶沈没直前の昭和五一年三〜五月の三ケ月分の手形金三四五万円は手形が不渡となり、三月分は控訴人が立替えたが、四、五月分は不渡のままであり、結局控訴人としては右三ケ月分の売買代金の分割金を受取つていないと供述している(当審控訴人本人調書六〜一六項)。

そして、被控訴人は原、当審における被控訴人本人尋問の結果において、被控訴人は控訴人に対し本件売買代金の分割金として昭和五〇年八月二一日から毎月一一五万円宛の手形を差入れ昭和五一年二月分まで計七回分八〇五万円を決済して支払つた旨を供述している(原審記録六三丁裏二項〜六四丁表四項、七〇丁表三二、三三項、当審同本人調書一〜四項、一六〜二一項―但し、二〇項は昭和五〇年八月から同五一年二月の誤りであると認める)。

そうすると、右控訴人、被控訴人各本人尋問の結果は昭和五一年二月分までの売買代金分割金が手形により決済された点で一致しているのであつて、結局右被控訴人本人尋問の結果のとおり被控訴人は昭和五〇年八月から昭和五一年二月分まで計七回に亘り八〇五万円を手形を決済することにより控訴人に本件売買代金の内入弁済をしたことが認められ、この認定に反するところがある原、当審における控訴人本人尋問の結果の一部は前認定の事実及び前示被控訴人本人尋問の結果、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠がない。

したがつて、右のとおり被控訴人の内入弁済は八〇五万円の限度で認められるがこれを越えて請求原因2(三)のように八三五万円を弁済したという被控訴人主張の事実は本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

よつて、被控訴人は控訴人に対し本件船舶の売買残代金として二、八九五万円の債務を有していたものというべきである(3,700万円−805万円=2,895万円)。

五被控訴人の貸金、立替金債権について

(一)  被控訴人は請求原因3において昭和五〇年八月二九日控訴人に四二万円を貸渡した旨主張し、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第五号証、原、当審における被控訴人本人尋問の結果の一部にはこれに副うところもあるが、その供述ないし供述記載自体も控訴人の事務員がいうままに控訴人に確認もせず、借用書もとらないで同事務員に預金通帳を渡して貸したというのであつて、裏付証拠もなくその内容も疑わしいし、これを否定する原、当審における控訴人本人尋問の結果の一部、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

(二)  被控訴人は請求原因4において昭和五〇年八月末頃控訴人が支払うべき船員の給料四九万円を立替払した旨主張し、原審における被控訴人本人尋問の結果により成立が認められる甲第七号証の一、二及び原、当審における被控訴人本人尋問の結果中には一部これに副うところがあるが、被控訴人が立替払をしたという船員の給料は右甲第七号証の一、二、原審における控訴人本人尋問の結果の一部に照らすと、もともと共栄産業株式会社が支払うべきものであつて、被控訴人は同会社にその立替金の返還請求権をもつに過ぎず、特段の事情の主張、立証がない本件において、これを個人である控訴人に請求する権利を有するとは認められないのであつて、これに反し被控訴人主張の請求原因4に副う前示被控訴人本人尋問の結果の各一部は右各証拠及び説示に照らし遽かに措信できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

六まとめ

右の検討によつて、被控訴人主張の請求原因のうち、3、4の貸金ないし立替金請求は認められないが、同2の(一)、(二)(1)に基づき控訴人が被控訴人に本件保険金四、〇〇〇万円の返還義務があること明らかである。

なお、被控訴人は請求原因2(三)(四)によつて自ら相手方である控訴人の反対債権を主張し、これとの相殺の主張をしているが、これは本来控訴人が主張すべき自己(被控訴人)に不利な予備的相殺の抗弁を自ら主張し却つて控訴人がこれを争つている。したがつて、被控訴人の右相殺の主張は相手方の援用しない自己に不利な陳述として訴訟資料となるのであるが(最判昭四一・九・八民集二〇巻七号一三一四頁参照)、この場合にも本来の予備的相殺の抗弁の性質に準じ、相手方たる控訴人の抗弁を判断した後にこれを判断すべきものと考える。

したがつて、請求原因2(三)(四)の相殺の当否は控訴人主張の抗弁を検討した後に判断を加えることにする。

第三抗弁等の検討

一質権者らに対する質権設定とその債務について

控訴人主張の抗弁1(一)のうち本件船舶の売買当時本件船舶に質権者らのため本件各債務を被担保債権とする質権が設定されていたことは当事者間に争いがない。

そして、右質権が本件船舶沈没当時も存続していたことは前認定第二の二(三)のとおり明らかであるが、右沈没当時控訴人主張の金額の本件各債務(相互信用金庫二、二〇〇万円、岡下造船一、四〇〇万円、アイリン金三〇〇万円)がそのまま存在したという控訴人の抗弁1の主張は採用し難く、前認定第二の二(六)のとおり、右沈没当時、相互信用金庫は一、七〇〇万円、岡下造船は一、六〇〇万円の残債務が存在したにすぎないものであることが認められ、アイリンの残債務は不明であるが、本件船舶の売買契約当時の被担保債権三〇〇万円がその後弁済その他により減免されたという主張、立証がないので、アイリンの残債務は三〇〇万円がなお存続するものと認めるほかない。したがつて、右沈没時の本件各債務の金額は右の範囲でこれを認めることができるが、これを越える部分の残債務の存在をいう控訴人の抗弁1(一)の部分は本件全証拠によるもこれを認めるに足らない。

したがつて、質権者らに対する債務残額は本件船舶沈没当時合計三、六〇〇〇万円であつたというべきである。

二被控訴人の立替金債務について

(一) 控訴人主張の抗弁1(二)の被控訴人が控訴人に対し立替金債務八三五万円を有するとの事実については、前認定第二の二(四)のとおり適正立替金債務六七七万円の範囲でこれを認めることができるが、これを越える部分は前示措信しない証拠のほか、これを認めるに足る的確な証拠がない。

即ち、右立替金債務を被控訴人が確認したとして控訴人が提出している確認書(甲第六号証)は前認定第二の二(五)のとおり控訴人において後日独自に作成したもので被控訴人がその内容や金額まで了承していたものでなく、右甲第六号証をもつて立替金債務全部が真実存在していたものとすることはできないし、控訴人主張の抗弁1(二)(3)のうち、(ウ)記載の岡下に対する七八万円の立替金について、原審証人岡下義孝の証言中には、「本件保険金を受取る前に保険料の未払分があつたのか、船員の給料の未払分があつたのか、なんとかしてくれということで私の方で立替えてやつた分だと思います」との供述部分があるが、それ自体内容が曖昧な記憶であるうえ、未払保険料については、〈証拠〉によると、保険料三二八万二、〇〇〇円のうち、最終の未払保険料二一八万八、〇〇〇円は昭和五一年七月二八日に被控訴人において右抗弁(イ)の「古木 金二五〇万円(保険料)」として記載されているとおり、これを古木が相互信用金庫から借り受け立替払したもので、右二五〇万円は未払保険料二一八万八、〇〇〇円に利息が加算されたものであることが認められ(原審記録六六丁裏一六項)、この他に岡下造船において立替えたという七八万円の未払保険料は認められないし、また被控訴人に船員の未払給料があつたこと及びこれらの未払保険料、未払給料を岡下造船が立替払したという事実はその裏付証拠もなく、右主張に副う前示原審証人岡下義孝の証言の一部はこれを否定する原審における被控訴人本人尋問の結果の一部、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

(二)  次に、右抗弁1(二)(3)の(エ)の「園田金八〇万円」は、原審証人岡下義孝の証言の一部によると、右園田が控訴人経営の共栄産業の事務担当者であることが認められるが、その立替金の有無やその内容が不明であるし、前示措信しない甲第六号証の記載の一部のほか他に園田が被控訴人に対し右八〇万円の立替金債権を有していたという控訴人主張の右抗弁事実を認めるに足る的確な証拠がない。

(三)  そうすると、本件船舶沈没当時被控訴人の控訴人に対する適正立替金債務として金六七七万円が存在したことが認められるが、控訴人主張の八三五万円の立替債務のうちこれを越える部分の存在を認めることができない。

四保険金と債務控除の合意について

控訴人は抗弁2において、当事者間で本件保険金から立替金債務を差引き残金を質権者に対する本件各債務に充てることによつて、一切の債権債務を解決する合意をしたと主張するが、前認定第二の二(五)のとおり控訴人、被控訴人らの話合により本件保険金四、〇〇〇万円を控訴人が直接受取り、それからまず適正立替金債務を差引き、次に本件各債務のうち質権者に対する残債務を支払うとの合意が成立したことを認めることができるが、この合意が控訴人主張の前示抗弁のように本件各債務、立替金債務を控除して、本件船舶に関する債権債務関係を一切解決するという合意、即ち債権債務の清算合意が成立したことまでは認められないことが明らかであつて、その主張に副う原、当審における控訴人本人尋問の結果の各一部は前示第二の二のとおり遽かに措信できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

五まとめ

右のとおり、控訴人が被控訴人に返還すべき前示第二の六の本件保険金四、〇〇〇万円から、前認定四の債務支払合意に基づき、前示二の適正立替金債務計六七七万円を差引いた三、三二三万円から前示一の質権者に対する債務計三、六〇〇万円を控除すると、かえつて二七七万円の不足が生じ、これは前認定第二の二(六)のとおり控訴人において自己が右立替金充当額として取得した保険金相当分から一括して支払つたものである。したがつて、被控訴人が、その受取るべき本件保険金から質権者に支払われ、自己(被控訴人)の出捐によって弁済した分は前示三、三二三万円であつたというべきである。

ともかく、前示のとおり本件保険金は適正立替金債務ないし質権者に対する債務の支払に充てられ、残金がないから、被控訴人主張の前示請求原因2(三)(四)の相殺の主張を判断するまでもなく、被控訴人の主たる請求、即ち本件保険金返還請求は失当である。

第四予備的請求の検討

一被控訴人は請求原因2(二)(2)において予備的に本件保険金が質権者らに対し支払われたとしても、その被担保債権の債務者は控訴人であるから、被控訴人が自己の出捐によつて控訴人の債務を支払つたことになり控訴人に対し物上保証人としての求償権に基づきその返還を請求すると主張している。

前示第三の五のとおり被控訴人は自己が受取るべき本件保険金三、三二三万円を質権者に対する残債務に充当して支払い、自己の出捐によつてその債務を消滅させたことが認められ、その債務の主たる債務者は前示引用の原判決理由説示一(二)のとおり本件船舶の売買契約に当り控訴人と定められていたことが認められる。

そうすると、被控訴人は他人の債務を担保するため質権が設定された物件の第三取得者として、その質権を設定した者、即ち物上保証人に準じて被担保債務のうち右三、三二三万円を自己の出捐をもつて弁済したものというべきであるから、この物上保証の目的物件の第三取得者による弁済に準用される民法三五一条に従つて、控訴人に対し同額の求償権を有することは明らかである(最判昭四二・九・二九民集二一巻七号二〇三四頁参照)。

二被控訴人は請求原因2(三)(四)において、控訴人の被控訴人に対する本件船舶の売買残代金債権を保険金四、〇〇〇万円から控除し、又は保険金四、〇〇〇万円と対当額において相殺する旨主張している。

ところで、右請求原因2(三)(四)にいう「保険金」とは、請求原因2(二)(2)において、「保険金が質権者らに支払われたとしても、……物上保証人に対する求償義務に基づきその返還をなすべき義務がある。」と主張し、保険金をもつて質権者に支払われた分をもその「保険金」と考えてその返還を請求していることなど弁論の全趣旨に照らすと、右の出捐された保険金相当の求償債権をも意味するものと解すべきである。

三そして、前示第二の四のとおり、被控訴人が控訴人に対し本件船舶の売買代金のうち八〇五万円を内入弁済し、右売買残代金債務は二、八九五万円であることが明らかであり、また、請求原因2(四)のうち被控訴人が控訴人に対し本訴において本件保険金または質権者らの支払に充当された保険金ないしこれに相当する求償権をもつて右売買残代金債務と対当額につき相殺の意思表示をなしていることは記録上明らかである。

四したがつて、控訴人は被控訴人に対し民法三五一条に基づく物上保証人に準ずる質物の第三者取得者に対する求償金として、前示一記載の三、三二三万円から右相殺額二、八九五万円を差引いた四二八万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年一二月一八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるといわねばならない。

第五結論

以上のとおりであるから、本件控訴及び附帯控訴に基づき、被控訴人の保険金請求の主たる請求を棄却し、予備的請求である求償権に基づく請求のうち前示第四の三記載の四二八万円と民法所定の遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し、その余はその理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて、これと異なる原判決は不当であるから主文第一項のとおりこれを変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(吉川義春 甲斐誠 玉田勝也)

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